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炎の挑戦者その3(upload.10.31/pm5:05)

性懲りもなく、同じタイトルで申し訳ない。俺明日の火を消さずにいる為には、どこかで火をつけるという訳でもないが、今しばらく我慢して頂きたい。

当たり前だが火事というのはあまりに非日常だ。だから良く覚えている。交通事故を目撃してもさほど印象に残らないのは、今では事故そのものが日常茶飯事と成り果てているからだ。火事と喧嘩は江戸の花と昔言われたが、燃えさかる炎というのは人の血をどこかたぎらせるのかもしれない。

それは今から20年以上も前の出来事である。独身寮は5階建て。ぼーっと窓を眺めていた私の隣の部屋の(長崎出身で長崎弁が完全に抜けきれない)同僚の浜上君が、あ、火事や!と叫んだ。まったくもってよく火事を見つける男である。1〜2キロほど向こうで突然火の手が上がるのが見えた。見た瞬間、二人とも何も言わず、あうんの呼吸で互いにラットとの如く、いや脱兎の如く階段をかけ降りた。階段を4〜5段一足飛びに飛び降り、、まるでレスキュー隊もかくあろうか…という程の勢いで私の車に飛び乗ると、激しくホイルスピンをかけながら、国道310号線を南とぶっ飛ばした。愛車はモスグリーンのスプリンターのSRだった。ソレックスキャブに積み替えた1400ccのエンジンは(一体これが何の関係があるねん…でも書きたいねん)軽い車体をまるでラットの如く(…ってしつこい)現場へと向かわせた。

まだ火が付いて間もない筈だったが、火事現場の河内長野のすだれ工場は、燃えやすいものがあったのか、天をも焦げよ!とばかりの勢いで燃えていた。100メートル程手前の方に車を止めて我々は歩いて現場に向かった。この到着が如何に早かったかは、消防車とパトカーより我々の方がはるかに早かった事実が証明していた。あとで分かった話だが我々が到着した1分程あとに、信号の角で互いにサイレンを鳴らしていたパトカーと消防車が衝突したらしい。これを見ることが出来なかったのはかえすがえすも残念であったが、一歩間違うと巻添えを食っていたかもしれない。

車を降りて、長屋が並んだ路地を浜上と一緒に火事現場へと歩いた。家から人が出て来てみんな玄関先で火の手を見ている。火の勢いは凄まじかった。私の人生史上最も派手な火事だった。私は思わず口をついて言葉が出た。

「よぉ〜燃えとんなぁ〜」

浜上君は、私の方を振り向きながら、怖い顔をして口にひとさし指を当ててささやいた。『し〜〜っ!ここで見ている人にとっては他人ごとと違うけん、そういう不謹慎な人の気持ちを逆撫でするような言葉はゆうもんじゃなかよ!』

奴の言う通りだった。考えてみたら見ている人の所まで火が回る可能性もある。私は自分の不用意な発言に我と我が身を恥じた。まったくもって野次馬の仁義にもとる発言だった。確かに人をかきわけて前に進むにつれて、見ている人の顔が不安顔に変ってゆく。火の手のまわりは早く、でっかい工場が丸ごと火の海となっていた。我々の顔も正面が明るく赤く煌々と照らし出される。その色はまるで熱さまで伝わって来るようだった。

ついに我々は最前列にと陣取っていた。消防車は狭い道なのでまだ現場に入れなかった。

工場に隣接する家にまで火の手は近づいていた。2階の窓から家財道具を必死に降ろす家族。その間近まで火が迫ったとき、群衆の中から、誰からともなく『あああ〜〜〜』と叫び声が聞こえた。もう、その家が燃えるのは火を見るより明らかだった。もちろん、火は見ていたのだが…。至近距離で火の粉が飛び散り、風に煽られ煙が充満するなか、群衆の中で浜上君が身を乗り出すようにして独り言のようにつぶやいた言葉を私は一生忘れる事が出来ない。

『それにしても、よぉ〜燃えよるよね〜!』

それから20年が過ぎた…。取引先の清水さんが事務所に来て、その話で盛り上がった時、清水さんがふと漏らした。あれ、それうちの嫁の実家のすぐ近くや。その頃やと小学校の高学年の筈やから覚えてる筈やな。今度聞いてみよう…。

それから1ヶ月ほどが過ぎた。清水さんが再び来て、仕事の話を終えて帰った…かのように思わせて、しばらくして慌てて戻ってきた。この間のあの火事の話、あれ、実家の人が覚えてましたわ。話のまんまでしたわ。でも一つだけ記憶違いがあって、すだれ工場やなくて、ひご工場でしたわ。

火事はとてつもなく非日常である。だから皆覚えている。そして、それは無いに越した事はないのだ。誰だって火事等に遭いたくはない。見れば見るほど、火の始末に神経質になるものだ。以て他山の石とすべし。火事を見る事は、自らの防火に繋がる事である…と自己弁護をして、炎の挑戦者シリーズを終えたい。

アディオス!

(ふゆき)

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