同時多発テロ、この文字が新聞に踊りだして数日が過ぎた。注意/2001年にアップされたものですふと思うのだが同時多発…というこのフレーズ。事件が起きて2時間後位にテレビでみた時は既に踊り狂っていた。いつ如何なるタイミングで出たのだろうか。どの局を見ても同時多発である。みんな一瞬に今回の事件が起きた時既に同時多発という文字が浮かんだのであろうか…。意味はすぐ分かるが、これまでに使われた事のないフレーズである。どうして皆一斉に使いだしたのだろう。湾岸の時も同じ事を思った。 そしてイスラムとキリストという宗教文化の違いは簡単には解決のつかない問題だ。後天的であるが幼い頃から脳裏に刷り込まれた文化は異文化とは決して交わる事のない重い重い平行線のようでもある。 だが日本では、「文化」というこの二文字は異様に軽い。私がまだ20そこそこの頃、2つ年上の先輩に連れられて某家電メーカーに勤める先輩の同級生の住んでいるアパートへ麻雀をしに出掛けた時の事だ。その住宅は異様に汚かった。薄汚れた床に柱に畳。非衛生的なキッチンは部屋の中にある。錆びた真鍮の水道管。薄暗い部屋を当時、日本では文化住宅と呼んでいた。そう言えば切れない包丁にも文化と名前がついていた。 この文化的住宅で麻雀をし始めて、私はある異様な光景に出くわす事になった。視界にチョロチョロと目障りなものが見え隠れするのだ。何なんだろうと思ってみると小さな虫だ。よく見るとゴキブリと同じ形をしていた。先輩がすかさず私に言った。 こら、おまえは客とちゃうで。一番年下やないか。今日はここにひと晩泊めてもらうんやから、虫の退治をせんかい!そう言うと掃除機を手渡してくれた。それで、小さいゴキブリを吸い取れという訳だ。信じ難い出来事だった。ここで説明しておかなければならない。私はゴキブリという奴が大嫌いである。好きな奴などいないに違いないが、徹底的に嫌いなのである。奴らをテロリストとするならば、ゴキブリから見た私は、徹底的に叩きのめすまで攻撃の手を緩めないアメリカ合衆国のような存在に違いない。同じ平面に居ること自体が耐え難いのである。過去においてどれほど奴らの為にトマホークミサイルスリッパと毒ガス兵器コックローチを片手に眠れない夜を過ごした事であろうか。 もう麻雀に身が入らない。気になって仕方ない。すると先輩が再び私に向かって叫んだ。「そこ、そこ、お前入り口に蓋をせんかい、常識やないか」見ると、吸い取った掃除機のホースからまた逆流して出てきたゴキブリの大群がそこにあった。信じられん、どこが常識や。 その部屋には、だてに家電メーカーに勤めているんちゃうで〜〜とばかりに、ありとあらゆる家電製品が誇らしげにホコリを被って鎮座していた。引き上げ品を全部自分で修理して持ち帰るのだと言う。ステレオがおいてあったが、蓋をあけるとターンテーブルの横にごきぶりホイホイが置いてあった。どっからどう入ったものか、インジケーターの中にまでゴキブリがいた。インジケーターと言っても分からない人もいるかもしれない。今ではデジタル信号で音の高低、強弱を表現するが、当時は針が左右に振れるメーターだった。 レコードをかけると、インジケーターの針の動きを避けるようにゴキブリも一緒に踊るのだった。い、生きとる…。文化的な住宅ではゴキブリも音楽と共に生息していたのだ。その日は、10分おき位に掃除機を手にした。もう麻雀どころではない。しかし、部屋の住人は気に留める様子もない。ごきぶりとはお友達のようだった。 その晩、私は車の中で寝た。 次の日ゴキブリ退治のご褒美にテレビを1台くれた。いくつかの引き取り品をばらして組み立てると、いくらでも作れるのだという。磨きを掛けると木目調のなかなか豪華なきれいなテレビだった。当時私は独身寮に住んでいたのだがが、自室の自慢のシステムコンポのラックの上にテレビを置いた。木目がマッチして、なかなかにカッコいい。音楽をかけ、テレビをつけてコーヒーを飲みながらくつろいでいると、おお、なかなか文化的な生活じゃないか…と心が躍るような気持ちになれたものだ。 だが、翌日仕事から部屋に戻って来た私は、恐ろしい光景をそこに見た。掃除機で吸い取った、あの小さなゴキブリ達が、私のステレオの上を這っていたのだ。その時思った。このテレビはトロイの木馬か…。私は慌てて、この木馬を黙って後輩にくれてやったのだった。 よく考えてみれば、昔は虫とお友達だった。少年時代は虫を避けて通れない。しかし、現代人はどうしてこんなに虫を嫌うようになったのだろう。こぎれいな部屋にこぎれいな家。こぎれいな道に、こぎれいな街並。駅も公園もみんなこぎれいだ。人種さえもこぎれいさを目指しているかのようである。 21世紀を迎え気持ちが踊る筈がどうしても心躍らぬ憂鬱な昨今である。 (ふゆき) そうそう、この場を借りて宣伝しますが、私がjooshowという別名で心暖まるお話というちょっとエッチでシュールなショートショートを書いています。お暇な方は是非どうぞ。
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