File-851 一番星(up2003/5.06/pm6:00)
気候は暖かくなってきても、世間の風は相変わらず吹き荒れ、不景気になればなるほど世間は中高年に…

つめたくなるものでございます。

かくいう私もいつの間にやら中年の仲間入りを果たし、常日頃から自分に厳しいものでございますから、不調になると、なんだお前はこの程度の男だったのか、このままで良いと思っているのか…等と自問自答しつつ、自分を…

みつめたくなるものでございます。

特に夕方になるとその傾向が強くなり、何も手につかなくなると、己の内なる激しい叱責の言葉に思わず背筋が…

つめたくなるものでございます。

そういう時、腹が減っているから頭がまわらないのではないか…という事に気がつきます。思えば思うほど腹が減ってくる。我慢が出来なくなるほど腹が減ると、何でもいいから、どうしても胃袋に何かを…

つめたくなるものでございます。

どうしても胃袋につめ込みたいのが明星の一平ちゃん夜店の焼きそばと私の中では決まっています。からしマヨネーズ付きの奴です。空きっ腹にはこれが実に染み込むように美味しくて、コンビニでも出かけようものなら、掴んだら決して手離す事が出来ない一品でございます。あの焼きそばソースとからしマヨネーズのハーモニーは絶妙のコンビで、ひとたび口にするとあまりの美味さに思わず目を閉じて空を仰ぎたくなるものでございます。そして、閉じた瞼には必ず闇の中に明星が輝いているのです。一平ちゃん、き、君はまさに明けの明星だ。暗闇から出てくる一番星だ。思わず叫んでいる自分がおるのでございます。

先日もこの一平ちゃんを手に取りかやくを取り出し、ポットからお湯を注いで蓋を致しました。実に実に至福の時でございます。
3分間待つにも人それぞれでございましょう。じっとカップ焼きそばを見つめながら、ただ時の経つのを固まったがの如くに待つ人、時計を見ながら違う事をするフリをしながら頭の中は全てカップ麺で占められている人、丁度3分の時間を利用してタバコを吸いつつ、吸い終わったら丁度3分だとばかりにタバコ時計を使う人、3分待つのに耐えられなくて、一旦頭を切り換えて全く違う事を始める人。私は一番最後のタイプでございましょうか。

その時も、一旦机に座りネットなど見ていて、はっと我に返った。な、何分過ぎただろうか…。えらいこっちゃ、え〜らいこっちゃ、い、いっぺいちゃ〜〜ん、いっぺいちゃ〜〜ん、慌てて私は一平ちゃんの元に駆け寄った。だが、そこには少しばかりふやけて焼きそばが焼きうどんになりかけていた一平ちゃんの哀れな姿があった。夜店が夜泣きになった瞬間だ。思わず天を仰ぐしかない。そこには希望の星が消えかかっていた。ああ、何て事だ。ふやけちまったい。だが、そこはふやけても一平ちゃんである。ソースとからしマヨネーズのコンビで混ぜ合わせれば、何とか味わう事は出来る。ソースを麺に振りかけ、しかる後にからしマヨネーズを最後まで絞りきってたっぷりと混ぜる。実に実に至福の時だ。だが、そこで私はとんでもなく恐ろしい出来事に気がついた。無いのである。ない、ない、ない!からしマヨネーズがどこを探しても無い!さては袋と一緒に捨ててしまったのか…とゴミ箱まで調べてもない。か、からしマヨネ〜ズ、からしマヨネ〜ズ、からしマヨネ〜〜〜〜〜ズがねぇぞ〜!

からしマヨネーズが、悲しマヨねえ〜ズになった瞬間だった。

大量生産である。ひとつくらいからしマヨネーズの袋が入っていないものがあってもそれはそれで仕方がない。万にひとつもそういう事はありうる事だ。だけど、だけど、何でそれが俺にぶち当たるねん。え、そんな事があって良いのか。俺が一体なにをしたっていうねん。何か悪い事をしたか。(いっぱいしてる)一平ちゃんファンの私に対してあまりにむごい仕打ちではないか。大量生産である。ひとつくらい不足品があってもやむを得ない。だけど、日清のUFOでは、かつて一度も無かった出来事だ。明星に対して、そこに企業としての姿勢を問い糺したくなるのをどうする事も出来なかった。そんな事だから日清のようにお日様には決してなれないのだ。お日様が寝たあとにコソコソ出てくる星くず程度にしかなれんのだぁ〜〜…と罵倒したい気持ちを必死で抑えた。しかし、物は考えようである。もし、からしマヨネーズはあるけれど、焼きそばソースが無かった時の事を思えば、これも幸運。プラス思考が私の良いところだ。ソースだけあれば辛うじて食う事ができない事はない。


人間というのは全く実に不思議な生き物でございます。一旦期待が膨らんだ後の反動は大きい。膨らんだのは結局麺だけだったという暗澹たる状況でも一筋の光明を見いだし希望に賭ける。それはあたかも自分に言いきかせるが如く、難民の事を思えば、食えるだけましだ…とばかりに、ぶよぶよになった麺に単純味のソースで空きっ腹に詰め込んだのでございます。夕刻の唯一の味わう楽しみは、単に空腹を満たすだけの人間の本能の如き下等な欲求へと成り下がり、ソースの単純な辛さに我が身を哀れみながら、最後に必ず皆がやる行動、すなわち箸で残った麺をグルグルとかき回し、ソースをふやけた麺に巻きつけたのでございます。

ああ、運命とは何と皮肉なものでございましょうか。何とむごいものでありましょうか。その時、かき混ぜた麺の中から、何と袋に入ったからしマヨネーズが出てきたのでございます。あんなに探してもなかったからしマヨネーズは麺の下にあったのです。全く明星にとっては青天の霹靂。えん罪の極み。勘違いとは言えども無実の罪を明星に着せようとしていたのは自分だったのでございます。私はその時思わず天を仰ぎながら、心の中でこう呟いたのでございます。

あほか〜〜!ややこしいことすな〜!マヨネーズの袋を麺の下におくな〜!

夜食は遅くまで仕事をする人間にとって友人みたいなものでございます。欠くことのできない行事みたいなものですが、その行事がわびしいカップ麺というのは実に哀れなものでございます。それでも働かなければならない非情のレール。しかし、こうして働けど働けど、我が暮らし一向に楽にならざる。世間の風は実に…

冷たいものでございます。

(ふゆき)

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